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新人時代から20年近く、通っている銀座の居酒屋がある。なんせ、魚が美味しく、紹介した人には必ず感謝される。著名人や企業の経営者もお忍びでやってくるお店だ。数少ない弱点は、本当にその日に美味しいと思ったものを仕入れて出しているので、すぐに刺し身や焼き魚がなくなること、そしてビールが生ではないことだ。ある日、会食の時にビールが生ではないことをご一緒した方に詫びると彼はこう言った。「いえいえ。生じゃない方が美味しい場合もありますから」たしかに、生ビールだからと言って必ず美味しいわけではない。注ぎ方や保存の仕方によってまったく変わってしまう。

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LOUD PARKというロックフェスに行ってきた。ハードロック、ヘヴィメタル限定のロックフェスである。会場の最寄り駅についた瞬間、黒いTシャツを着た人が集まる光景は圧巻だった。今年のラインナップは、往年の名バンドが中心だったようで、若手が少ないように見えた(これはこの手のジャンルの特徴だと言われるが、新人バンドもまた多数デビューしているのも事実だ)。楽しめるイベントではあった。前から見たいと思っていたアーチスト、なかなか観ることのできないグループ、まったく知らないバンドとの出会いがたまらない。気づけば、サークルモッシュに参加し、身体をぶつけあい、いつの間にか顔面を殴られたりもしたが、気持ちよくダイブもし、充実感があった。1日中、この手の音楽を聴いてお腹いっぱいになり、ヘッドライナー前に帰ってしまった。耳鳴りが、心地よくすら感じる。

もっとも、「楽しかった」という一言では総括できない。このイベントに限らずだが、ロックフェスはむしろ音楽シーンを活性化しているのではなく、「がっかり」「残念」の連鎖をうんでおり、中長期でぇあシーンを衰退化させているのではないかと思っている。フェスは、自分たちを知らないファンの前で演奏するので、代表曲を中心とした「営業用」セットリストになる。サウンドチェックも十分にできないし、普段やっているライブハウスとは勝手が違い、本領を発揮できないバンドもある(まあ、このあたりはアーチストの力量の問題ではあるが)。バンドの世界観も伝わりにくい。そして、このフェスで◯十年ぶりに来日、このフェスのために再結成みたいなバンドは明らかに演奏の準備が足りない。「ステージで動かずに堂々と歌い上げるボーカル」なんて言うと聞こえがいいが、歌詞カードを下に置いているので本当に動けない人がいたりする。この日もいた。

ロックフェスは出費も相当のものだ。この日のチケット代は15,500円。これにドリンク代500円が必ずとられる。これだけで1日の水分は十分ではないので、1本300円のソフトドリンクや1杯600円のビールを飲まざるを得ない。グッズだなんだというと、かなりの出費になる。もちろん、音楽市場はかなり前から音源よりもライブという時代になってはいる。音源の売上やライブの動員を見るとあたかもファンがこれを求めているかのように見える。包括的に課金するのが、音楽に限らず今の時代のマネタイズの手法ではあるだろう。ファンが、市場が求めているのだから良いだろうという意見もあることだろう。しかし、これがガッカリの連鎖を生み出していないだろうか。つまり、「ライブ」も「ロックフェス」もやればいいというわけではない。結果として市場を縮小させるのではないかという視点を、業界関係者はちゃんと持っているだろうか。

今後の音楽市場において、物凄い勢いでパッケージコンテンツに回帰する可能性があるのではないかと私は見ている。あくまで、素人の独断と偏見ではある。しかし、がっかりの連鎖を生み出すロックフェス、同様に音楽を消費する定額聴き放題サービスなどにユーザーが物足りなさを感じる時代がもう来ているのではないか。それよりも、最高傑作の録音物、さらにはこだわりぬいた最高のジェケットなどが再評価される時代がやってくるのではないか、と考えるのは牧歌的だろうか。ファンも高齢化するし、若い人はお金も時間も十分にあるわけではない。次の時代も音楽を楽しみ続けることができるように、業界関係者は考えるべきだし、ファンも声をあげるべきだろう。