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今のメインの仕事は大学教員である。千葉商科大学国際教養学部の専任講師に就任した。学術研究においてはまだ実績といえるものがほぼなく、学位も持っていないので、論文博士を目指して粛々と準備しつつ、いまは社会学者とか研究者とは絶対に名乗らず(メディアがそう表記しようとしても全力で止め)、「大学教員」と言うことにしている。

仕事として、高校で模擬講義をすることがある。昨日もそうだった。昨日は「講義」というよりは、人生の先輩として、進路選びについて話した。

最近、高校で1年生向けに行った講演の一部を書き起こしたものをお届けする。大学の宣伝の部分は全削除。実際は専門分野の話や、自分の大学のことも書いているのだが。意識が高くない私なのだけど、ついつい本当のことを語ると意識が高いかのようになってしまう。そして、いちいちポエムのようなプロレスのような。



皆さん、こんにちは。常見陽平です。千葉商科大学国際教養学部の専任講師をしています。今日は高校卒業後の進路について、お話ししたいと思います。

といっても、やや戸惑っています。高校生の皆さんの前で講演できるのは大変に光栄なのですが、私の高校生活は、人生においても悩みの多い時期で、とても偉そうに語れるものではないのです。特に皆さんと一緒の高校1年生、16歳の頃は人生が辛かったです。高校というよりは、社会が嫌いな日々でした。

自分の希望どおりの高校に進学することができました。文武両道、自由な高校として有名な高校でした。でも、嬉しいのは合格して、入学する前まででした。たしかに自由な高校でしたが、自由とは何かということを考え、自由というものに、振り回され悩みました。自由を弄んでいたような、弄ばれていたような。そこには圧倒的な天才と、金持ちもいました。ひたすら劣等感を抱く日々でした。ここじゃないどこかに行きたい、今の自分を変えたい、変わりたいと思っていました。

受験勉強が嫌いでした。私は勉強が大好きです。幼い頃から趣味は読書でした。ただ、詰め込み型で点数を争う受験勉強に意義を見いだすことができませんでした。まあ、今は基礎学力や考える力を養うために、また競争になれるためにという意味で肯定的な見方もできるのですが。

あっという間に、第一志望の高校は、辛い空間、時間になりました。受験勉強は嫌いなので、ずっと読書と音楽、ラジオにのめり込みました。将来のぼんやりとした不安を抱えつつ、こういうものに接することができたのは、良い経験だったと思います。そこには世の中の真実があったような気がします。

皆さんにお伺いします。高校生活の満足度って何点ですか?80点以上の人は?数人いますね。リア充ですね。80点〜60点の人は?もっと手があがりましたね。正直に答えてほしいのですが、60点以下の人は?わ、いっぱいあがりましたね。

今、正直に60点以下と答えていた皆さん、私はみなさんの味方です。そうなんです。青春って苦しいんですよ。青春が美しいなんて大嘘です。青春って漢字で書くと横棒が多いでしょ?これは、乗り越えていく壁が多いからなんだと思うのです。

高校生活は辛いのが当然だと思うんですよ。だって、受験勉強は辛いし、お金もないし、中途半端な自由があるだけです。自由になれた気がしただけなんです。人間関係だって、正直、色々あると思います。まあ、人間関係が辛くなるのって小学校5年生くらいからそうですよね。そう、このくらいの年になると、たとえば昼休みや放課後にサッカーをする時、人を選ぶようになります。同じレベルとか、気が合うかとか。女子の場合、小5より前から人間関係って辛いですよね。女子の5人以上の仲良しグループってなかなか成立しませんよね。わかります。

高校生活の満足度が60点以下と答えてくれた人は、別に努力していないわけではなくて、むしろまともな感覚なんじゃないかと思うんです。

私は小学校の後半〜中学校の前半に行きたい大学、学びたいことが見つかりましたし、将来なりたい仕事も幼稚園に入る前からなんとなく決めていました。少年時代にNHKで過労死のドキュメンタリーを見て、労働問題に関心を持ち。中学校時代には社会学を勉強したいと思っていましたし。幼稚園に入る前くらいから新聞記者か作家か大学の先生になりたいと思っていました。まあ、プロフィールにあるように色々寄り道しましたけどね。

でも、普通はそうそう見つからないわけで。だから、迷ったら選択肢が多い方に行くというのは決して間違った選択ではないと思います。

今日は進学に関する講演なのですが、大学に入ったからといって、誰でも幸せになれるわけではありません。正直、同じ大学にかよって、同じ学費を払っていても満足度や得られるものは人によって違います。メディアでも日本の大学の問題点は語られているので、聞いたことがある人も多いことでしょう。

とはいえ、私は大学は行った方がいいと思っています。大学は自分を大きくするステージです。将来、自分で自分を支えることができるように、そして大人たちに騙されないように自分を大きくする場だと思っています。

実際、勉強することは楽しいです。「本当はどうなんだろう?」という考える姿勢や方法、専門分野の知識、そして教養を得ることができる場所です。特にグローバル化する時代においては、教養が必要です。理解しあう上でも、考えを深める上でも大事なんです。私は10代の頃は、いっぱい本を読んだ方だとは思います。ただ、人生における後悔は、10代の頃に「もっと」本を読んでおきたかったなということです。

でも、私は大学は勉強「だけ」をするところではないと思っています。趣味だとか、サークル、アルバイト、旅行や留学、友人関係や恋愛からも学ぶことが多いです。そこでも私は実は「難しさ」「奥の深さ」がキーワードなのではないかなと思っています。サークルなどでも人間関係の難しさに直面することもあるでしょう。世の中は簡単ではないということを学べる場だと思っています。

大学生活は腹いっぱい違和感と感動を味わい尽くすと良いと思います。世の中には理不尽なことがある。でも、一見すると理不尽なことに合理性があったりするから深いなって思います。先ほど言ったようによく学び、よく遊ぶこと。勉強だけだと人生は面白くありません。遊んでるだけだとダメ人間になります。もっとも、人間は遊びに飽きるのですけどね。悩みは行動の量が解決してくれます。そして、異なるものとふれあうこと。考えが違う人と会ってみる、異国の地に身をおいてみること。異なるものとの出会いで人は一瞬にして変わることがあります。そして、社会を直視すること。若者にとって残酷な時代だと思います。大人たちの論理で物事が進みます。包帯のような嘘、欺瞞や偽善を見破るために視点を鍛えないといけません。

私は10代、20代に出会った人や本のおかげで、世の中を見る視点を学ぶことができました。勉強に感謝している点です。一方で、その頃にまみれた映画や文学に感謝しています。そこには、合理的ではない人間が登場するのです。人間は実に多様で面白いものなのです。

人間は学びたいことや、人生を変える人になかなか出会えない。でも、だからこそ出会えた時に嬉しいのだと思います。そんな出会いが、いつかあることを祈っています。

私が逆立ちしたって皆さんに勝てない点があります。それは若さです。若いということは、自由であり、選択肢があるということです。可能性があるということです。私は豊かな社会は、可能性と多様性がある社会だと思っています。

もうすぐ高校2年生ですよね。17歳の日々が始まります。皆さんの描く「17歳の地図」はどのようなものでしょうか?誰も見たことのないような、今までこの世に存在しなかった地図を描いてください。

ありがとうございました。