何度も泣いた。笑って泣いて、怒って泣いて、哀しんで泣いて、楽しくて泣いて。何かを創る、勝負する。友情、努力、勝利、そして恋。さらには圧倒的な映像世界。

映画版『バクマン。』を観てきた。実に楽しめる娯楽映画だった。自分のハートが熱くなるそんな映画だった。まずい、何度でも通ってしまいそうだ。Blu-rayが出たら、間違いなく買うだろう。思わず、この予告編を今さら何度も見て、さらにはサカナクションが歌う主題歌「新宝島」を購入し、何度も聴いている。こういう映画を待っていた。

簡単に言うと、漫画家を目指す高校生の成長物語だ。叔父が漫画家で高い画力を持った真城最高(サイコー)と文章を書くのが上手い高木秋人(シュージン)がコンビを組み、漫画を描く。初めて描いた漫画(をリライトしたもの)が、手塚賞に入賞。そして、天才高校生新妻エイジとの人気1位をかけたバトルが始まる・・・。ざっくり言うとそんな物語である。藤子不二雄Aの『まんが道』の現代版というとわかりやすいだろう。

前提として私は、原作をまったく読んでいない。石を投げられそうだが、世の中、こんなものである。時間がないし。別にサブカル評論家でもないし。売れていることは知っていたし、絶対に読めと言われたこともあるが、読む機会がなく、なんとなくここまできた。

こういう小説や漫画の大ヒット作品が映画化される際は、原作をどこまで再現しているかどうかという話になるが、こういう精密なプラモデルを作るかのような感覚で論じる映画評論は私は嫌いだ(映画評論家でもないけどな)。どうして、こう、新しいガンプラ(なかでもMGシリーズとかRGシリーズな)が出たときのように映画を論じるのだろう。再現性だけを論じるなら、何度も原作を見れば良い。世界観を壊さず、映画だからこそできることを果たしていればそれで良いのではないか、一部、ストーリーなどが違ったとしても。まさに、劇中で編集者の服部が言う漫画だからできることの話にもつながるものだ。さらには、映画化されることにより、そのコンテンツを楽しむ人が増えるのだから。

いかにも『週刊少年ジャンプ』的な、友情・努力・勝利が、恥ずかしさなどかなぐり捨てて、実に気持よく描かれた作品だと思った。このベタさ加減がいい。

見どころは、映画ならではの描写だと思う。漫画を描く様子、その息遣い、筆の音。さらには、原作も含め、漫画が空間に広がっていく描写がたまらない。サイコーとシュージンが、筆やペンを剣に見立てて、エイジとチャンバラをするシーンも痛快である。

冒頭の、『週刊少年ジャンプ』を紹介する映像も圧巻である。同時に、改めてこの媒体が、その時代、時代の少年(そう、今は少女も)に夢と希望、まさに友情・努力・勝利の素晴らしさを伝えてきたこと。歴史の重みを感じさせる。ピーク時には600万部を超えたのだが、「出版不況」と言われる時代にあっても、少年マンガ雑誌1位であり続けているのがスゴイ。そのジャンプのネタをそのまま使いつつ、自ら読者アンケート至上主義などのことを描いているのも、よい皮肉だった。

まあ、佐藤健と神木隆之介、染谷将太が高校生という設定は?と思ったが、たしかにそれっぽく演技しているような。個人的には、染谷将太の天才っぷりにドキドキした。同じ原作・大場つぐみ、作画・小畑健コンビによる『DEATH NOTE』の映画版で、松山ケンイチがLを演じた時のことを思い出した。キワモノ感が実よく出ていていい感じ。この映画を見てから、家での会話が染谷将太が演じる新妻エイジ風になってしまった。

個人的には、読者アンケートNO.1を目指して戦っている様子を見て、熱くなるとともに、自分の生き方について猛反省した。人生において、こんなに競争に熱くなった瞬間があまりないからだ。いや、自由な高校に進学するために死ぬ気で勉強した中学時代は成績で争っていたような気がするし、ネットニュースライターになってからはPV数を競っていたような気もするのだが・・・。気づけば、低い、最低限のレベルができるかどうかで競っていたことに気づき。例えば、書籍の執筆で言うならば「1回でも重版がかかること」と「新聞に書評が載るか」どうかを気にしすぎていた。同世代の著者を圧倒するくらいの部数や、歴史に残る傑作と呼ばれる本になるということなどを目指すことができていなかったのではないか、と。低いレベルの、最低限のところで競っていたのではないかと思うわけだ。猛反省した。まずい、意識が高くなっている。



ポップカルチャーとして、この映画も、そして『週刊少年ジャンプ』も素晴らしいと再認識した次第だ。そう、新作でもかなりのページを割いて書いているのだが、私は「ポップカルチャー」という言葉が気になっている。なんでもこう、サブカルとして語ろうとして、面倒くさいことになっていないか、と。すぐそこにあって、手が届いて、手軽に楽しめるもの。難しく考えず、まずそのようなものでいいじゃないか。

ややネタバレだが、その意味で個人的に最も好きなシーンの一つは、ジャンプに掲載された漫画を様々な人、例えば子供部屋に集まった少年たち、昼食中や仕事の合間に読む人たちの描写だ。ああ、これってポップカルチャーだなと思った次第だ。監督が大根仁だからとか、川村元気や伊賀大介が関わっているとか、そういうことがどうでもいいくらい、ふらりと見に行って楽しい映画だった。

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というわけで、大の大人が笑って泣けるポップカルチャーだったと思う。何度か通ってしまいそうだ。

あぁ、良かった。1800円でこの傑作を楽しめる時代に生まれて、私は本当によかった!