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矢沢永吉の大ファンである。25歳くらいからずっとライブに通っている。東京以外にも出張に合わせて観に行ったこともよくあった。今年の東京ドームライブももちろんチケットを取った。この白いジャケットも、矢沢永吉の影響を受けていると思う。今までライダースジャケットで行くことが多かったが、今年は初めて白の上下で行くと思う。

とはいえ、矢沢永吉ファンというだけで「蔑視」、まではいかなくても、変な眼で見られることはたまにある。「ああ、熱い人なのね」くらいならいいのだが「面倒くさそうだな」とか「怖そうだな」と思われたりする。そう言われても、私は「永ちゃんファンには悪い人はいない」と信じていた。13年前までは。

あれは2002年の東京スタジアム(現:味の素スタジアム)でのスペシャル・ライブでのことだった。会社の仲間中心に10名くらいで観に行った。素晴らしいライブだった。私は、当時、名古屋で働いていたのだが、わざわざ車を飛ばして観に行った。宿泊先の新宿のホテルに車を置いていったのだが、すでにホテルには矢沢永吉の格好の人が多数いて、みんなこれ目当てで上京しているのかと思った。

ライブの終了後、新宿か下北沢か調布にでも出て飲もうかと思ったのだが、意外にも飛田給駅に向かう途中のカラオケ・スナック風のお店があいていたので、そこに入った。近くの席には、白い上下を着た永ちゃんコスプレの集団がいた。私たちと会うなり拳を振り上げ「永ちゃん最高」と言いつつ、一緒に「永ちゃんコール」をした。

私たちは近くの席で食べていたのだが、のちほど店員が「あの・・・カラオケをしていた方、お仲間じゃないのですか?」と質問してきた。なんと、彼ら、食い逃げをしていたらしい。一人ひとり、携帯を持って用がある風に外に出て、結局、全員いなくなった、と。「永ちゃんファンには悪い人はいない」と信じていたのだが。ショックだった。

会社の同僚から「矢沢永吉はいいけど、ファンが悪い」ということを、この頃、言われたことがある。当初、この言葉に対して疑問を抱いていたが、同意せざるを得ない部分もあると思う。たしかに、初めて行った時には暴走族の集会かと思い、カルチャーショックを受けた。矢沢永吉自身は、そう思われることを嫌っていて、粗暴な人たちにはライブでも「他に行け、他に」と言ったりするのだが。実は矢沢永吉サイドでも対策はしていて、00年代に入ったころから「飲酒入場禁止」となった。彼のサイトには他にも注意事項が沢山書かれている。飲酒の他・・・

・周囲を威圧する服装の方の入場はお断りします。(私設応援団等、団体を思わせる服装、日の丸の刺繍・扇子含む)
・通路に出たり、後ろ・横を向いての永ちゃんコール等の"強要""あおり"は周りのお客様のご迷惑となりますので、絶対におやめください。
・MCやバラード中の声援、大声は他のお客様のご迷惑となる場合がございますのでご遠慮ください。
係員が演出を妨げると判断した場合は、退場していただく場合もございます。


などだ。まあ、それでも永ちゃんコールの「強要」はなくても「あおり」くらいはよくあるのだが。

矢沢永吉の幅広い活躍により、たしかにこの十数年でファン層は広がり、マナーもよくなったと思う。なんというか、ジャンル、アーチストのイメージというのはファンが決める部分もあると思う。

仕事で他の著者が話すイベントに行ったり、趣味でライブやプロレスに行くことがよくある。そのたびに、ファンを観察することにしている。特にその出演者のイベントに何度か参加している場合は、ファンがどれだけ広がったか、入れ替わったかを見ることにしている。「あぁ、昔のファンがずっとついてきているのね、よくも悪くも」とか「このオタクっぽいファン、面倒くさそうだな」とか色々感じたりする。気づけば、そこが「村化」していることに気づいたりもする。

例えば「若手論壇ブーム」なる言葉があった。もう言うのも恥ずかしいくらいだし、結局、売れたのは数名だったのだが。そのときもブームのような村社会感があるなと思っていた。お世話になっていた編集者が「若手論壇ものの読者は、せいぜい3万人ですよ。その人たちが、その手の著者の何冊かを買う」という。たしかに、その時のブームで売れた本で5万部を超えた本はほぼ聞いたことがない。唯一、古市憲寿氏の『だから日本はずれている』(新潮新書)は10万部を突破したのだが、これは若手論壇もののようで、実は若者が中高年に問題提起する内容で、その層に売れたわけで。その手の著者のイベントに行ってもよくも悪くも「村」感があった。ややオタクっぽく面倒くさそうで新しいファンが入りづらい空気も感じた。著書についても読んだら何か言わないといけない風な。楽しみ方など、多様でいいのだけど。

ブランドの法則のようなものだけど、あのジャンルのファンだとかっこいい、敷居が適切(低すぎても大衆化するが、高すぎても孤高のものになる)、ファンが面倒くさくないということは大事だなと思った41歳の朝。