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下町の分譲マンションに10年住んでいる。陽平城と呼んでいる。両家の親も、それぞれの兄弟も一戸建てに住んでいる中、うさぎ小屋な僕達って・・・いつか豪邸立ててやるとか思いつつ、マンションはマンションで便利で好きなので。住宅ローンもあるし。

それはいいとして本題だ。

マンションの掲示板コーナーで、奇妙な張り紙を見つけた。

その名も
「マンションいい話コンテスト」
だ。

もうだいぶ前から募集している。そうか、こんなのがあったのか。まず、存在自体に驚いた。

一般社団法人マンション管理業協会が主催し、国土交通省・総務省・東京都・住宅金融支援機構・公益財団法人マンション管理センター・NPO法人全国マンション管理組合連合会・ 一般社団法人日本マンション学会・明海大学・一般社団法人日本マンション管理士会連合会・一般社団法人マンションライフ継続支援協会・マンションコミュニティ研究会などが後援。

募集内容は「マンションライフにおけるよろずエピソード(200〜2000字程度)
(個人単位のものから、地域を巻き込んだものまで、心温まる話、感動的な話、笑える話、ユーモアのある話など、内容は問いません。)」とある。

グランプリは50万円が。さらにミニドラマが作られるとか。

7月31日が締め切りのようだ。

なるほど、そうきたか。

私は、サラリーマン生活にしろ、就活にしろ、一般的に「つらい」「大変」と言われるものの中にも「良い話」はたくさんあると信じている。そして、マンションは立派な共同体であり、居場所になり得ると思っている。というわけで、こういうコンテストがあるということは、庶民の日常生活に光を当てるという意味で有意義であると言える。

ただ、ますます「ポエム化するマンション」という実態も物語っているのではないだろうか。

ご存知の通り、マンションの募集広告はポエム化が止まらない。

ポエムに万歳!
小田嶋 隆
新潮社
2013-12-04


小田嶋隆さんのこの本でも紹介されていたが・・・。

マンションの広告は、感動的な、しかし意味の分からないようなものになっている。

この本で紹介されていた事例はこうだ。

「地の必然。飾るのではなく装う、というスタイル」


クリオ文京音羽というマンションのキャッチコピーだ。なるほど、力強く、かつ洗練されているようで、実は何を言っているのかよくわからない。

文京区のマンションは必ず「叡智の杜」になったりするし、ちょっと埼玉に行けば「天地創造」なんて書いてあったりする。先ほども近所の新築分譲マンションを検索したら、ちょっと都心に近いだけで「都心を使いこなす」なんて表現が出ていた。いやいや、港区民には負けるだろうよ。

ちょっと住宅ローンを組んだだけでそんなに人生変わるものだろうか。いや、ローンがあるってことは変わるわけだけど。これに限らずだが、そこに住んだところで、息子や娘は必ず東大に入れるかどうかもわからないし、飾ろうが装うがおしゃれな生活ができるかどうかわからないし、買った人の年収が上がるかどうかもわからない。まあ、そんなのは庶民の文句なのだけど、何をもってそう言っているのか、根拠すら曖昧だ。

何かこう、ふわふわした言葉で惹きつけようとするわけだ。

募集段階でもこうなのだが・・・。このコンテストでポエム化した作品が選ばれたら、検討中の人も住んでいる人も「マンションっていいな」と思うんだろうな。

なんというか、こういう、ふわふわした言葉で踊る日本社会っていかがなものだと思う。

マンションというのは、決して楽しいだけのところではない。むしろ、ドロドロしているわけである。理事をやっていたことが2年ほどあったが、多くは語らないが、日々、問題は起こるわけで。しかも、原因を特定しづらい問題が起こるわけで。

ちなみに一般論としてよくあるのは「ベランダ喫煙問題」。要するに上の階から煙草の灰が落ちてきていたようだ、と。ただ、2階に住んでいたとして、上に十数階あるわけで、必ずしも特定できない。ある程度、わかっていても、実際は未成年が吸っている可能性もあるわけで。すると「うちには煙草を吸う人がいない」みたいな話になる、と。

そんな問題に日々立ち向かうのが、マンションの理事会なのだけど。

さて、どんな話が賞をとるのかな。

まぁ、「若き老害」なので立場上、警鐘を鳴らしてしまったが、それでも良いことはある。たくさんの問題に対応したマンションの理事会だけど、妙な絆を感じたし、居場所の一つだったし。「常見さんのところの若旦那」みたいな感じで。・・・だんだん素性バレて、マンションの管理人にも「昨日、◯◯に出てましたね」と言われるようになり、「そっとしといてくれよ」と思ったりもしたのだが。

真面目な話、10年近く住んでいるわけだけど、当初、子供だなあと思っていた人たちがすっかり大きくなっていたりする様子をみたり、保育園に連れて行く子供が大きくなっていたりすると、なんというか、みんなで成長している感があったり。

というわけで、どういう作品が賞をとるのか、激しく傍観しようと思う。

君も応募だぜ。