東浩紀『弱いつながり』を読んだ。読んで、また猛烈に旅に出たくなった。いや、旅じゃなくても、いますぐ出かけたくなった。銀色夏生の詩集風に言うならば「とにかくあてもなくてもこのドアをあけようよ」という感じだろうか。

私たちは、気づけば何らかの形でシステムに組み込まれている。それは国家や社会というものそのものでもあるのだが、日常的に使っているウェブサービスのアカウント、GoogleやApple、Amazon、楽天、リクルートポイント(笑)などのIDが、私たちをシステムに組み込んでいく。「ネットを駆使して、自分で調べた」などというものは、大嘘で、ネットを使った時点でシステムに組み込まれている。口コミサイトで表示される「驚くほど美味い店」なるものも、集合知を装ったまやかしで、その検索ロジック、表示ロジックなどに支配されている。

尾崎豊の「15の夜」ではないが、「自由になれた気がした」だけであって、私たちはシステムに踊らされて毎日を送っている。

ここ数年考えていた、「現地力」という言葉を思い出した。私、オリジナルの言葉ではないのだが、自分の中で熟成されていった言葉である。ネットで何でも調べられるし、やりとりできる時代であるからこそ、リアルな場の価値が上がっていると言える。

そんな、ここ数年考えていた言葉が、東浩紀によって、熱く、わかりやすくまとめられ、伝えられる。そう、もともとは幻冬舎の広報誌への連載だったからでもあるが、今回の東浩紀は、わかりやすい。理解されやすい、とも言う。

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ふと思い出した。私がじゃらんnetの営業企画担当者だった頃のことを。

宿泊施設の皆さんに、じゃらんnetをもっと活用してもらいたい、結果として取引額をアップさせたいという下心は、もちろんあった。とはいえ、ネットを使った集客ノウハウ、地域振興のノウハウ、ネット時代の宿泊施設の運営方針などを伝えるべく、自ら発案し、約1年で全国ののべ73の観光地をまわり、約3000名の宿泊施設関係者を前に講演を行った。

始発の新幹線、特急を乗り継ぎ、プロジェクター、資料などを抱えて観光地に乗り込む。地元の観光会館で昼の13時から講演。ちょうどチェックアウトとチェックインの間の時間だからだ。

当時は、じゃらんnetのポイントシステムや、クチコミ投稿が一部のエリア、宿から嫌われていた。時代に対して少し早かったのだと思う。講演中に野次を飛ばされたことや、質問攻めという名の吊し上げを食らったこともある。とはいえ、誠心誠意に対応し、信頼を勝ち得ていった。

これは、公私混同プレイでもあった。なんせ、会社のお金で全国を旅できるのだから(もっとも、楽しむ余裕もなかったのだけれど)。

現地に到着する度に反省した。私はその観光地のことを何も知らないということに。そこに広がる空の美しさ、空気感をじゃらんを始めとする旅行情報誌、宿泊予約サイトは表現できていただろうか。いや、表現することなど、所詮無理なのである。同じ空などひとつもない。そして、そこには強い日常があった。強い日常があるからこそ、私たちは非日常を味わうことができるのである。

現地の営業担当に連れていってもらう、ネットに載っていない景色、味にいちいち感動し、反省した。自分は何も知らないということに。

システムに規定されない努力、現地力が大事だと再確認した次第だ。

身体の移動、旅、弱いつながり。

良いキーワードをもらったかな。

さて、今日も現地力と偶発性を大事にいこう。システムに取り込まれるその前に。