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宮崎駿監督作品、スタジオジブリの『風立ちぬ』を観てきた。

私は別に、周りにいるマニアほど宮崎駿やスタジオジブリに熱い男ではないし、そもそも映画が好きかというと、学生時代に何かに取り憑かれていたように観ていた時期があったのが不思議なくらい、あまり観ない。映画館で映画を観るのは年に1回くらいだ。それでも、宮崎駿監督作品、スタジオジブリの映画はテレビでもよく放送されるし、「観ておくか」という気分になるものなので、宮崎駿監督作品は『崖の上のポニョ』以外全て、スタジオジブリ作品も半分以上は観ていると思う。

それでも、昨日の朝まで、「今日から公開開始」という事実を知らなかったわけだが。朝日新聞のこの記事を読んで、これは観なくてはと思ったのだった。

朝日新聞デジタル:(インタビュー)零戦設計者の夢 映画監督・宮崎駿さん

昼過ぎにサイトをチェックすると、都心の映画館はもちろん、錦糸町の映画館ですらも夜の回までほぼ満席で、あいている席も前の席ばかりだったのだけど、西新井の映画館が何故かガラガラだった。あとで気づいたが、足立区の花火大会なのだ。そりゃ、宮崎駿監督作品の公開初日とはいえ、花火の方をとるよね・・・。

ここから、感想を書く。ネタバレあり。
結論から言うならば、私が観た宮崎駿監督作品の中でベスト5に入る映画である。限りなく1位に近いと言ってもいい。もちろん、1位は『ルパン三世カリオストロの城』なのだけど。

と同時に、観客を選ぶ映画だとも感じた。私はエンドロールで映った光景や、エンディングテーマであるユーミンの『ひこうき雲』に涙をこらえるのに必死で、余韻に浸っていた。周りに座っていた同世代だと思われる人たちも、人目をはばからず涙していた。

「おわり」という文字が出たときに、子どもの可愛らしい声が映画館に響いた。

「もう終わりかよー」

そう、「大人向け」という声というか、批判があるのだとか(読んでいないので、正確には分からないが)。

それはそうだと思う。なんせ、この映画は、仕事と妻を愛する企業戦士映画なのだから。私が中年で、男性で、元サラリーマンで所帯持ちだから大いに共感できたのだろう。子どもたちには理解できない部分も多いことだろう。なぜ、あそこまで働くのか、愛する人のもとに走るのか、と。

この物語は、ゼロ戦を開発した堀越二郎の物語と、堀辰雄 の代表作であり結核を患う婚約者との日々を描いた『風立ちぬ』が融合した物語である。

関東大震災や、昭和恐慌など、当時の事件も織り交ぜており、今の時代とのリンクを感じさせている。

この物語で描かれている堀越二郎は、「素晴らしい飛行機を創る」という夢に一途な人間であり、天才であり、努力家だった。彼が仕事に没頭する姿はいちいち胸を打つし、やや自分語りで恐縮だが、自分もこのような、何人かの天才兼努力家と働いたことがあり、そのことを思い出したりもした。

ほぼ予習ゼロで行ったものの、「ゼロ戦開発者の物語」と聞き、リアルな自伝的作品になるかとおもいきや、「夢の世界」などを描き、そこでのイタリア人著名設計士との対話などがあり、ちゃんとファンタジー色も残している。その融合が秀逸であり、観るものをワクワクさせる。

そのイタリア人設計士の言葉「人間の才能を発揮できるのは10年」が心に突き刺さった。いや、宮崎駿が今も活躍している時点でこの言葉はウソのような気がするのだが、たしかに最高に輝くのは10年なのかな。

思えば、宮崎駿監督作品には、飛行機がたくさん出てくるし、空を飛ぶというのは重要なシーンである。この作品では、その飛ぶシーンの爽快感もさることながら、「飛ぶ」ということにかけるエンジニア魂に胸が熱くなった次第である。

エンジニア魂、いや少し広げると研究者、開発者魂が描かれた作品だと解釈している。そう、まわりにいる大学教授や院生、さらには理系の人々など、世の中には、三度の飯よりも研究するということが大好きな人がいるのだ。よりよいものを創ることに魂かけている人がいるのだ。

先日、サラリーマン漫画評論家などの肩書きを持つ真実一郎さんとゲンロンカフェで対談したが、最近はサラリーマンを描いた漫画が減っている。というか、ないと言っても過言ではない。金字塔にして最後の砦だった島耕作も社長を退任した。会長に就任するのだが、今後はおそらく政治経済×老後漫画になっていくことだろう。等身大の、仕事に没頭するサラリーマンを描いた漫画は実に少ない。こういう自伝物だから描けるのだろうか、この熱は。

もっとも、宮崎駿監督へのインタビューでもふれられていたし、劇中でもそんなセリフがあるが、飛行機、特に戦闘機の開発というのは矛盾の塊である。より速く飛ぶ、美しい飛行機を開発することは人類の夢であるが、それは人を殺すものであり、戦争に使われるものである。

彼の作った美しいゼロ戦も、結局、「1機も戻って来なかったんですよね」ということになったわけだ(セリフはうろ覚えだ)。

劇中で彼の大学時代からの同期である本庄は「より仕事に集中するために、嫁をもらう。これも矛盾だ」というセリフを言う(これもうろ覚えだ)。

そもそも会社人間、企業戦士にとって人生は矛盾だらけである。いや、それはたとえ企業社会から逃げたところで、人生は矛盾に満ちている。

その矛盾と向き合うことこそ、生きるということなのだろうか。

人は、仕事と、愛する人という、ある意味矛盾するものと向き合いつつ生きるのだ。

この映画につけられたコピーは「生きねば」だった。それが、また深く、重いと感じた次第である。

エンディングテーマにユーミンの「ひこうき雲」を持ってきたのも、これまた深く、重い。そう、うろ覚えだったのだが・・・。中学校時代、いや、高校時代だったか。ユーミンのエッセイ『ルージュの伝言』(角川書店)を近所の図書館で読み、この曲の秘話を読んでいたからだった。これは、当時、高校生の飛び降り自殺が増えていたことと、筋ジストロフィー症で高校時代に亡くなった同級生のイメージが重なってかかれた曲なのだ。実はくらい歌なのである。いや、十分に切なさを感じるけど。空×死にゆく愛する人というイメージが絶妙にマッチしている曲なのだ。

これほどこの映画にマッチした主題歌はないだろう。

「生きねば」

そう感じた次第である。

最近、スランプだったので、元気が出た。

俺は生きるぞ。

夏休み中にもう1回、2回くらい観たいな。

【追記】7月21日14時に追記
そうそう、主人公堀越二郎の声優を庵野秀明氏が担当しているのが、なんとも贅沢でよかった。いや、決して上手くはない。それが朴訥な技術者の味を出していて、いい。宮崎駿作品というかジブリ映画の特徴は、普段は声優をやらない著名人(しかも、俳優ですらない人も多数)を声優に起用することである。『となりのトトロ』における糸井重里などは名演だった。